「岡山発!健康で元気に輝き続けるまち」シンポジウムが、2月15日に岡山市内で開催されたので出席させていただきました。
会場に着くまでは「岡山は温暖で緑が多くて健康に良い街なので、リタイヤ世代のシニア移住にアピールできるよう、ますます魅力を高めてまいりましょう!」のような内容を想像していました。
ところが、実際には私(移住ガイド)が考えている内容とは違っていました。岡山市への高齢者移住について「歓迎」だけでなく「問題」だという考え方があったのです。
シンポジウムは「岡山市に住むと 自然と健康になるまちづくりとは」として、筑波大学大学院 久野譜也教授の基調講演から始まりました。
死亡リスクや認知症の発症には「運動不足」が大きく関わっているために、街へ出て「歩くこと」が楽しくなる工夫や、車を使わずに生活できる街(ウォーカブルシティ)の例が紹介されました。
講演者は「岡山市の街歩きが楽しみ」と話されていましたが、私(移住ガイド)も同感です。
岡山市中心部へ行った時には、よく市街の中心部を流れる西川沿いの散策を楽しんでいます。西川は歩行者専用の歩道が整備されており、総延長2.4キロメートルの緑道公園です。四季の草花が楽しめるのはもちろん、水上広場(時計塔)、ホタル沢など憩いの場所が多くあります。また、「ほこてん」「花・緑ハーモニーフェスタ」「キャンドルナイト」など様々なイベントが開催されており、冬季にはイルミネーションで装飾されます。
西川緑道公園・枝川緑道公園|岡山市
そのほかにも岡山はウォーキングを楽しめるスポットが豊富なので、当サイトでも移住ガイドが実際に歩いて紹介したいと思います。
ええとこ発見図(ウォーキングマップ)|岡山市
車を使わずに生活できる街(ウォーカブルシティ)は、岡山では車を「足」とする利便性を切り捨てることができずに、実現が難しいかもしれませんが、「歩くことを楽しむ街づくり」から始めて理想に近づいて欲しいと思いました。
シンポジウム第二部では、株式会社メディヴァの三島千明さんより「岡山発!健康で元気に輝き続けるまちの検討に関する基礎調査・研究」の調査報告がありました。
移住ガイドが関心を持った内容は次のとおりです。
- 岡山市は、2030年には後期高齢者比率が17%を超える。
- 岡山市内の在宅療養患者数は2040年までに少なくとも現状の1.8倍となる。
- 2025年には在宅療養支援診療所(および病院)が約35〜70カ所、在宅医療を担う医師が50人〜100人、新たに必要となる。
- 2040年には訪問介護事業所が135カ所、通所介護事業所が188カ所、居宅介護支援事業所が144カ所、新たに必要となる。
- 介護職員の必要人数は著しく、2025年には1,725人、2040年には3,904人が新たに必要となる。
移住関係
- 岡山市を移住地の第1候補にしている人は、東京、神奈川、大阪などに多い。
- 岡山市を移住先第1候補地とした方が移住を検討する理由の上位は「安心安全な環境」「静かで豊かな自然」「ある程度の利便性」「水や食べ物、空気のおいしさ」で、全体でもこの4つが上位となった。
- 移住先として最も人気があるエリアは「中心市街地から少し離れているが駅に近い住宅地」となり、2位が「中心市街地」3位が「郊外、田園地帯」となった。
- 移住先の物件については、古くとも安いほうが望ましいと考える人が多数となった。
- 将来の療養の場については、移住した居宅での生活を継続することを望む人が、介護施設へ移ることを希望する人よりも多い。
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そして、調査報告の中で最も私が驚いたのが以下の「財政収支シミュレーションの結果」でした。 “都心寄り”の移住モデルでは、60代が移住後30年〜50年で赤字となるが、継続して移住が毎年続く場合は60代でも財政的には問題がない。一方、70代は継続しても10年程度で赤字となる。
岡山市における平成27年度の移住者構成比- 40歳代:55.6%
- 50歳代:34.1%
- 60歳代:9.6%
- 70歳代:0.7%
赤字となる理由として、医療費や介護費の財政負担が増すことが懸念されていましたが、
それでは、もし60代、70代以上の高齢者がどっと岡山市へ押し寄せてきたら、いったいどうなるのでしょう?
調査報告は次のようにまとめられていました。
60歳以上での移住は、毎年新たな移住者を受け入れていく場合、60代の都心寄りモデルであれば2060年までは財政的なリスクを先送りできるが、それ以外の移住を無条件で受け入れることはリスクが大きい。
「岡山発!健康で元気に輝き続けるまちの検討に関する基礎調査・研究」株式会社 メディヴァ
第三部のパネルディスカッションでは、「岡山で元気に!生涯にわたり安心して暮らせるまちをめざして」をテーマに次の方々が、発表や意見交換を行いました。
モデレーター浜田 淳(岡山大学大学院医歯薬学総合研究科 教授)
パネリスト
- 筒井 恵子(岡山県老人福祉施設協議会 副会長)
- 佐藤 正彦(岡山盛り上げよう会 代表)
- 三島 千明(医師・株式会社メディヴァ コンサルタント)
- 福井 貴弘(岡山市保健福祉局 審議監)
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移住ガイドがまとめた要点は以下のとおりです。
- 岡山市の医療・介護資源は、他の政令指定都市と比較して全国でトップクラス。
- 岡山市の高齢化率が2030年には28.2%になり、75歳以上の人口割合も10.7%(2010年)から17.9%(2030年)に激増。
- 岡山市は平成25年2月に総合特区として国の指定を受け、介護機器貸与モデル事業を実施している。
- 岡山市内の認知症患者は約2万人と推定されている。
- 介護施設では人材の確保が大きな課題となっている。
- 岡山県における介護職員の受給推計によると、不足する介護職員数は、2017年(3,160人)、2020年(3,483人)、2025年(5,886人)となっている。
- 岡山における移住相談の4割強が30代〜40代。
- 45歳〜64歳くらいの移住者は「仕事探し」、65歳以上の移住者からは「住宅探し」の相談が多い。
パネルディスカッションで特に印象的だったのは、
- 政令指定都市の中でも岡山市の介護保険料は高額なのに、負担が増えるとさらに保険料が上がるのではないか?
- 現状でも介護の現場は人手が足りていない。
- 高齢者は住み慣れた町で、馴染みの人たちと暮らすのが幸せ。
来場者の質疑応答においても、他県や他国から移住者が増えると住民の経済的な負担が増し、サービスが低下するのではないかという懸念の声もありました。
高齢の移住者を「積極的に受け入れられない」という会場のやりとりを聞いていると、まるでEU諸国の移民問題について語られているようでした。
「安い労働力は魅力だが、国民から労働を奪われては困る」と「移住による人口増は魅力だが、市民の財政負担が増えるのは困る」という相反するニュアンスがそっくりです。
移住ガイドは、今回のシンポジウムに出席してみて、高齢者の移住に「Welcome!」の声ばかりではないことを知りました。
岡山市は、日本版CCRC構想の推進を「まち・ひと・しごと創生総合戦略」に掲げています。
岡山市 まち・ひと・しごと創生総合戦略より「生涯活躍のまち(日本版CCRC)構想」の推進
国で検討されている「生涯活躍のまち(日本版 CCRC)構想」に呼応し、東京圏等の地方移住を希望する高齢者に対して、岡山市が受け皿となる総合的な環境について、国の動向を注視しながら様々な角度から課題等を整理し、移住・定住に関する新たな取組の方向性として検討する。
CCRCとは「Continuing Care Retirement Community」の略で、直訳すると「継続してケアが受けられる退職者のための共同体」という意味で、高齢者が健康で充実したセカンドライフを楽しめる街づくりの考え方です。日本版では都心から地方へ移住してゆとりある老後を送ることが推奨されています。
有識者を集めて行われた岡山市の「まち・ひと・しごと創生市民会議」(第二回)においても、(日本版CCRC)構想の推進と高齢者移住の問題を指摘する次のような声があったそうです。
「介護分野の求人倍率は今でも6倍を超え、人材不足が深刻。高齢者をさらに受け入れるのは難しい」 「市の財政負担が増す懸念がある。拙速な検討を避けるべきだ」
出典:2015年9月30日 山陽新聞
このままでは岡山へ移住してくる高齢者が、嫌味を言われて肩身の狭い思いをしたり、移住者に対する市民の感情が悪化する恐れもあります。
「よそ(他)から来てくれるのは、えんじゃけど(良いけれども)、介護保険料は上がるし、病院での待ち時間は増えるし、ベット数が足らんけー入院ができんで、ワシら、ほんまに困りょーんよー。来てくれるのはえんじゃけどな。。。」
お爺さん、お婆さんから、そんなつぶやき声が聞こえてきそうです。
最近では外国人から「日本人は公共機関に乗車する時やサービスを利用する際に、きちんと一列に並ぶのでモラルが高い」と絶賛する声が聞かれますが、日本人には特に「先に並んだ者が優位で、後から来る者は立場が弱い」という意識が強いのではないかと思います。
ですから、市民が後から来る移住者にマイナスの感情を持たないようにする配慮が必要です。
今回のシンポジウムでは、高齢の移住者によって財政収支が赤字になるという「マイナス面」が報告されましたが、移住者がもたらす「プラス面」(経済波及効果分析、税収見込みなど)についても提示して欲しいと思いました。
また、東京都から岡山に移住する場合、介護・医療保険の保険料を移住者が東京都に納付して、東京都から保険金が給付される「住所地特例」が適用されれば、岡山市への財政負担が大幅に軽減されるようです。
このような制度を利用して、高齢の移住者が市民の負担増にならないことを周知することも必要だと思いました。
そして、利用者増によるサービスの低下を防ぐためには、介護の問題、待機児童の問題ともに「人員不足」であることが明確なのですから、介護士や保育士が岡山市へ移住したくなるようなPR戦略の展開も一考の価値があるように思います。
岡山移住ガイド SYUICHI
#岡山市 #健康 #シニア
2017/02/27 追記
石垣市で保育士の確保を推進するためのモニターツアーが実施されました。
石垣市は24日から、保育士の確保を推進するため島外の保育士に限った2泊3日のモニターツアーを受け入れている。ツアーは居住地から石垣空港までの往復交通費、往復航空運賃、滞在中の食費が自己負担となっているが、定員10人に13人が参加するなど関心の高さをうかがわせた。市は、保育士として移住する際に渡航費50万円を補助しており、「人材の確保につながれば」と期待。
八重山毎日新聞社
コメント欄
「CCRC」ってあちこちで耳にするようになった言葉がよくわからなかったんですが、なるほど、つまり地方における建物利用という観点で考えると面白いものなんだってことが何となくわかりましたよ → https://t.co/SmrrEBmDpk
— 暮らしに戦略を (@stratinfo) 2017年7月24日
老人専用コミュニティ。是非地方創生の要に。
— 羽二重もち子 (@unikokkoko) 2017年7月24日
高齢者の“大移住”が始まる!?~検証・日本版CCRC~ | NHK クローズアップ現代 https://t.co/QqPWsnKJZm
日本版CCRCは健康な時から住み、介護になっても移転することなく継続的ケアの安心が保証される。居住者の健康寿命延伸のために、健康ビッグデータ解析、予防医療、食事、生涯学習、軽就労が緻密にプログラム化されているだけでなく、地元に大きな雇用を生み出している。↑
— 全学止揚アルゴリズム (@zimei_no_ri) 2017年7月8日
大都市に住む高齢者が住み替え、地域貢献や生涯学習をしながら健康時から介護時まで安心して暮らせる住宅コミュニティー「日本版CCRC」が注目されている…https://t.co/lXfALdyPk1 @php_Voiceさんから
— PHP⊿オンライン衆知(公式) (@PHP_shuchi) 2017年5月29日
日本版CCRCは、高齢者の地方への移住政策ということではなく、老若男女が共生する街づくり政策として位置付けられるべきではないかと思います。https://t.co/VLrlscf1P9
— Noble1 (@takase_kiichi) 2017年5月19日